Thursday, September 05, 2013

Timeless Time


目黒のブリッツギャラリーでの、セイケさんの新作の写真展が、いよいよ迫ってきました。会期は2013年9月14日(土)から12月7日(土)までです。今回の個展の写真は、すべてプラハで撮影されました。これらの写真が撮られた時、そのすべてを僕はセイケさんの背中越しに見ていましたので、感慨深い写真展となりそうです。 9月15日(日)の午後には、僕とセイケさんでトークイベントを行います。誰でも撮れそうなのに、決して撮れないセイケさんの写真。それは何なのかに迫ってみたいと思います。お時間がありましたら、ブリッツギャラリーのサイトからお申込みください。セイケさんとの、プラハでの撮影については、こちらに記しています。

Sunday, July 14, 2013

桐島ローランドという男


親友の桐島ローランドが、次の参院選に「みんなの党」の公認候補として立候補しました。

幅広い仕事を手がけているローリーですから、多くの関係者との間で調整が続き、最終的に、彼が候補者になることが決定するまで、ずいぶんと時間がかかりました。また、仕事関係のことだけではなく、家族のことも含め、ローリーは本当に悩んだことだと思います。身近にいるものとしても、その悩む姿を見守るしかありませんでした。

そんな中、出馬するとなったら公示日まで時間もないしということで、先に小暮徹さんにポートレートを撮ってもらうことにしました。いつもは撮る側のローリーが撮られる側になり、僕もローリーの後ろではなく小暮さんの後ろに立って、「これでいいかな」と皆と相談しながら撮影を終えました。

その撮られる側のローリーの姿を見ていて、こいつはすでに決意を固めている、ということが、僕にはわかりました。さらに、自分が特定の政党から出馬することで、どれだけの人に迷惑をかけることになるかを知っている。そういう迷惑を引き起こすのであれば、という逡巡が、彼の中で駆け巡っているのが僕にはわかりました。

しかしそれは「負けたらどうしよう」ということではありません。自分を今まで支えてきてもらった人たちへの恩義と、それを裏切ることになるかもしれない事への躊躇です。いま負っているものへの、この責任感の強さ。それこそが桐島ローランドのすべてではないかと僕は思います。そして彼の眼に、すでにこの時点で政治家の眼をしていると感じました。だから僕は友人として、彼をどこまでも応援しようと決めたのです。

さて、選挙も中盤戦から後半戦という時期になりました。そこで、なぜ桐島ローランドは、「みんなの党」から立候補したのか。それについて、誰もが納得した話を書いておこうと思います。

桐島ローランドは本当に社会を変えたいと思っています。そして、先に書いたように、責任感のとても強いローリーは、「政治ごっこ」や「評論家」ではなく、本当に社会を変えていくのに、一番重要なものは何なのかを何度も何度も自問したはずです。

原発をなくす。

たとえば彼が掲げる政策の最重要項目である「原発ゼロ」。このひとつの目標に向かって、何をどうして行けばいいのか。これまでも原発についてfacebookやtwitterでずっと問題を喚起してきたローリーが、政治家という、もう一段上の次元に立とうとしたとき、責任感の強いローリーは、それを「本当に実現出来すること」を選んだのです。そして、本当に実現するには何が必要か。そこを徹底的に深堀りし始めました。そこで出した結論は、次のことです。

国会に法案を提出する。

これ以外に原発をなくす筋道はないのです。あらゆる既得権益がもつれた糸玉のように絡み合った電力エネルギー分野。そこに向け、どれだけ声を上げても、何も変わらないのです。これは311以後を見れば誰でも理解できることです。

唯一の道は、法案を提出出来る政党に席を置き、そこで積極的に関係各所に働きかけ、どんなに抵抗されても道を切り開いていく。その道筋に、一筋の光明を見たからこそ、桐島ローランドは「みんなの党」から出馬したのです。

先の国会で「みんなの党」は議員立法20件、他党との共同提案36件もの実績があります。それに対して共産党は合計でたったの4件しか法案を出せていません。「まかせてください」と言うのは、「法案を出します」ということなのです。もっと言えば、法案を出せない政党の候補者や、無所属のひとりの候補者に、「まっとうなことを言っているな」と思って投票しても、その一票は生かされないのです。

イデオロギーでは原発はなくならない。実際の電力コストを計算したら、安いと思われている原発の発電による電力は公表値の倍以上になり、シェールガス等のコストとなんら変わらない。そうした実際の経済性を具体的に演説で話しているのは桐島ローランドだけです。

そして、法案を出すことをミッションにしているかどうか、他の立候補者の演説を確かめてみてください。

ローリーは、ずっと自立・独立して自分の生活を切り開いてきた人です。だからこそ「言ったことはなしとげる」。それしか彼の生きる道はなかったのです。そしてそれは今後も変わらないでしょう。組織に属するとなっても、その意味をしっかりと自分のものにする。そして切り拓き、かならず目標を越える。その彼が持つ強い責任感を理解していただけたらと思います。

桐島ローランド・オフィシャルサイトに、政策を掲げています。どうかご一読ください。


Tuesday, March 19, 2013

Magazine "F5.6" vol.7

枻出版社から発刊されているカメラ専門雑誌「F5.6(エフゴーロク)」の第7号が発売されました。

この号の巻頭6Pにわたって、セイケトミオさんがプラハでDP3 Merrillを使って撮影された写真が掲載されています。

これらの写真は、DP3 Merrillのカタログで使用したものと撮影データとしては同じもので、それをベータ版のPhoto Pro5.5でモノクロ現像されたものです。

これまでこのセイケさんの作品ページはライカのカメラで撮られてきましたので、被写体は違うにしろ、以前の号の、それらの写真との違いは、見る方が見れば十分に読み取れるのではないかと思います。

シグマ側に立って言えば、まったく遜色ない、というのが僕の正直な感想です。もっと言えば、価格で言えば10倍するカメラでなくても同等の「作品」が撮れるということを証明してしまった、ということにもなり、これはDPシリーズの持つポテンシャルを信じてきた僕にとってはとてもうれしい出来事です。

煙突の写真はスヴォルノスティの廃墟の中から撮影した光景です。この場所に辿り着くまでにセイケさんと人気のない階段を恐る恐る登ったのが思い出されます。見開きのクラシックカーとの出会いも衝撃的でした。8Pはプラハの写真の神様が降臨した瞬間。そしてカタログにはカラーで掲載した最後の石畳と犬のカット。どの写真も、そこにいた僕は特別な思いを持ってしまい、胸が熱くなってしまいますが、モノクロームに仕上げられた素晴らしい写真を、ぜひ書店で手に取って見て頂けたらと思います。

それから自分ごとになりますが、同じ号に僕へのインタビュー記事が掲載されました。タイトルは「シグマDP3メリルという独創性 シグマが私たちの心を掴むもうひとつの理由 INTERVEW / 福井信蔵氏(アートディレクター)」という仰々しいものですが、シグマの山木社長の意を汲みながら、これまで行なってきたシグマのカメラ群へのブランディング方針と、その具体化について語らせていただきました。インタビューでは、「宇宙でも書けるスーパーボールペンではなく、最高の鉛筆」という一言に色々な思いを込めました。セイケさんの写真と合わせて読んで頂けたらと思います。どうぞよろしくお願いします。

Saturday, March 02, 2013

SIGMA DP3 Merrill : Prague

巨匠・セイケトミオさんに、SIGMA DP3 Merrillのデビューを飾る写真をお願いし、訪れることになった古都・プラハ。「これが現時点での最新です」と受け取ったDP3をプラハで手渡し、2012年11月20日から、セイケさんとの撮影が始まりました。問題の多いベータ機という未完成のSIGMA DP3 Merrillを渡されながら、あれほどの写真を残してくださったセイケさんへの感謝は言葉に出来ません。

自分の撮影メモを紐解くと、初日にこう書いています。
「初日メモ。憧れの写真家と過ごした12時間。朝8時半にホテルに来てくださり、そこからラウンジで2時間、まずはカメラを手渡して設定の確認と機能の説明をひととおり。そのあとDPシリーズに与えてきたコンセプトと、今回のプロジェクトの大きなフレーム、さらに清家さんの写真から受けている印象を、もう一度しっかりと話す。彼の写真を自分なりに分析し、その特徴とも言えるところを彼に面と向かって言うのは正直ものすごく緊張する行為だった。話している間じゅう、無表情に近い顔、強い目線。怖い。最後までじっと僕の話を聞いて、「すべて了解。アタマに入れました」という返事。ほっとする。そして次にセイケさんの口から出たのは、どうやってそれを実現するかという、具体的なプランと、出来なかったときのリスクについて。なんという理解力。なんという器の大きさ。写真家となってからプロモーションのために写真を撮るのは初めてだ、と聞いたが、それは本当なのかと思う。この人にかけるしかないという思いが正しかったと、この段階で思える。本当にありがたい。奇跡に近いと思う」。
後で理解したことですが、「プロモーションのために写真を撮る」かどうかなどという以上に、セイケトミオという写真家が、写真を撮るための姿勢と集中力は遥かに高いのです。あたりまえのことですが、これまですべてご自分で計画され、実行され、撮れたか撮れなかったの結果もすべて自分の責任となる。そうした、厳しくも本物の、「写真家」の持つレベルの高さの片鱗に触れながら、この時はまだその高みを理解出来ていませんでした。

さらに、以前、このブログに記したことがありますが、ベータ機での撮影はストレスの多いものです。プラハでのカメラも様々な問題を抱えていました。でも愚痴ひとつ言わず、「シグマの山木社長が納得してくれる写真撮らなきゃねー」と、にこやかに僕に接してくださいました。さらに僕に向けて様々な会話を通して、「写真を撮る前に、撮る自分を正すことが先」ということを教えてくださいました。カタログとサイトに記した「純朴という名の郷愁」のエピローグは、まさにそういうかたちで頂いた言葉をそのまま載せたものです。

自分ごとで言えば、セイケさんが撮影される後ろから、僕も初めてのDP3 Merrillを使いながら写真を撮りました。枚数だけはそれなりに撮りましたが、セイケさんが撮られた写真を見せてもらうたび、自分がいかにダメかを思い知らされました。セイケさんは見るまでもなくダメなのをご存知なので「どんなの撮れたの」とは言わずにいてくださる紳士なのです。その優しさのおかげで、僕は変に落ち込まず、あきらめもせず、投げやりにもならず、何がダメなのかを毎晩考え、自分なりに工夫しながら撮ることを続けました。でも翌日、同じ場所でセイケさんが撮られた写真を見て「すげー」と同時にガックリ…。それを毎日繰り返しながら、言葉にしがたいものを得ました。

そしてプラハでの撮影から東京に戻ってきて、「あ、世界が違う」と感じました。うまく言えませんが、「東京」から出発したのに、戻った「東京」が、出発した「東京」ではない。そんな感じです。眼が変わってしまった。見えているものの中で「見るべきもの」がハッキリと認識出来ている。まさに別次元です。完全に世界が変わってしまいました。「写真と言うのは自分を写すことだ」というセイケさんの言葉を、一生懸命、咀嚼しようと努めただけで、世界が変わってしまいました。

でも、これは、まさに僕が望んでいたことなのです。まさかこんなカタチで自分事に出来るとは驚きでした。ここまで自分を大きく変えるとは思っても見ませんでしたが、僕がSIGMA DP3 Merrillで写真を撮ってもらえませんかとセイケさんにお願いした時、セイケさんに託した「写真の持つチカラ」を、まさか、というほどに我が身に得ることが出来た。そして「この思いは、写真に対して意識のある人にはきっと伝わる」という確信にも繋がりました。これほどの強烈な経験は、僕にとってはアヴェドンを育てたブロドヴィッチとの出会い以来でした。

セイケさんが写真に残している「セイケトミオ」とは何か。写真とは何か。それに気づくには、ただただセイケさんの写真に無の心で対峙すれば、誰にでもわかることだと思います。そこで「わからない」のは、見る人の心の問題であって、セイケさんのせいではない。見る側がすべてを脱ぎ捨て、写真家が撮った時の「心」に触れようとすれば、僕が得たものと同じものをきっと得ることが出来ると思います。

セイケさんから得たもの。それを言葉にするのには、もう少しかかります。それほどに僕にとってそれは大切なものなのです。言葉に出来る時がきたらまた書きます。


■このエントリーに用いた写真について : 最初の写真は、プラハでずっと見続けたセイケさんの背中です。セイケさんは街中でも常に集中されていますが、さらに「撮る!」と決めた瞬間から、ものすごい集中が始まることを、いつも背中から感じていました。それを撮りました。二枚目の使いこまれたチューバの写真は、僕はきっと一生忘れないだろうな、という僕だけの大切な思い出が深く重なっています。それを心に置きながら現像したものです。撮ったときは無心でした。でも後に深く学ぶこととなった写真です。

Wednesday, February 27, 2013

54歳になりました。

気がつくと誕生日を迎えていました。「おめでとう」と言ってくださった皆さん、ありがとうございます。天気も良かったので、DP3 Merrillを片手にグリィと一緒に散歩に行き、穏やかな時間を過ごすことができました。

歳を刻むこの一年、2012年の2月24日からの一年を振り返ると、沢山の経験の思い出が自分に刻まれています。そうした経験を与えてくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです。

2009年、50歳になったとき、やりたいことが加速度的に増えている、と書いています。その増えていた「やりたいこと」のひとつに、「ちゃんと写真を撮れるようになる」がありました。「ちゃんと」という言葉は曖昧ではありますが、今日の自分と対峙してみると、この3年で得た経験の中で、色々なものを自分の中に落とし込めたような気がしていますし、その「ちゃんと」を、本物の「ちゃんと」にしていく道筋も得たようにも思います。

2012年、モロッコでの撮影で僕は「人を撮る」に意図的にフォーカスしました。そこで得たものは「物語」の重要性。そしてそれはオレゴンでの撮影にも強く反映され、ポール・タッカーさんとの対話によって「象徴性」とは何かを得ました。そして昨年最後のロケとなったプラハ。セイケ・トミオという偉大な写真家との時間によって、ただ「撮る」という行為を繰り返すだけでなく、「何を残すのか」をしっかりと考えるようになりました。そしてその考えは、自分の生き方そのものにも強く影響を与えたようです。

人は「誰かにその存在を求められている」ことを頼りに、明日も生きて行こうとするのでしょう。しかし歳を重ねていくことで、必ずその求めは少なくなって行くのだとも思います。ただ、ここで言いたい「求められること」とは、忙しい中に自分を置いているのかどうか、ということではありません。そういう居場所を指すものではないのです。そうではなく、何を残して行くか。うまく言えませんが、のちに求められるものを残せるのか、なのです。

そこには誰かと較べて、というような尺度はありません。自分で何かを残していく。それを決めるのは自分です。得たものを、得ただけで終わらせずに「残す」。自分が信じるものを残して行く。とても抽象的な言い方ですが、それが自分のこの先の生き方の土台に据えるべきこと、と、そういう気がしています。

グリィに「風が冷たくなってきたし、帰ろうか」と言いながら、駐車場に向かって歩いているとき、振り返ると、落ちんとする陽光が照り返しながら自分とグリィに向けて輝いていました。もう一度背筋を伸ばし、明日を生きて行きたいと思います。どうぞよろしくお願いします。


Thursday, February 21, 2013

SIGMA DP3 Merrill : Now Out


いよいよ明日、SIGMA DP3 Merrillが発売になりますね。

構想が噂されつつも、一度はあきらめていた中望遠レンズ搭載機が実現し、さらにシリーズ最高のレンズ性能を纏っての登場。これには僕も本当に驚きました。さらに、セイケトミオさんとのプラハでの撮影を通して、DP Merrillシリーズにこの一台が加わったのは、本当に素晴らしいことだなと実感しました。

これで、「一眼レフカメラSD1 Merrillの性能を、そのままコンパクトに収め、いつでもどこでも最高の作品作りが出来るカメラ」というコンセプトを持つ、SIGMA DP Merrillシリーズが三兄弟となりました。広角のDP1 Merrill、標準のDP2 Merrill、そしてこの中望遠のDP3 Merrill。このどれもが、中版カメラで撮られた写真を凌ぐ、凄まじい描画を見せ、他を圧倒する写真を撮らせてくれる「唯一無二」のカメラたちです。さらに、この画質を実現するカメラを、10万円以下で提供するのは、ホントすごいことだと思います(レンズ付きですからね!感謝!)。

シグマの山木社長、DP3 Merrillの開発に関わったみなさま、発売、おめでとうございます!

→ SIGMA DP3 Merrill : オフィシャル ティザーサイト
→ SIGMA DP3 Merrill : オフィシャル スペシャルサイト
→ SIGMA DP3 Merrill : オフィシャル 実写ギャラリー
→ SIGMA DP3 Merrill : 実写ギャラリー解説 1
→ SIGMA DP3 Merrill : 実写ギャラリー解説 2
→ SIGMA DP3 Merrill : 実写ギャラリー解説 3
→ SIGMA DP3 Merrill : 実写ギャラリー解説 4
→ SIGMA DP3 Merrill : 実写ギャラリー解説 5
→ SIGMA DP3 Merrill : 実写ギャラリー解説 6

Sunday, February 17, 2013

SIGMA DP Merrill Series : 画角比較2

DP3 Merrillの発売までもうすぐですね。僕もワクワクしています。さて、プラハで撮ってみた三機種の画角違いの写真をもう一枚作ってみました。前にアップした画角違いのスタディは、遠景ベースだったのですが、これはDP3 Merrillのサイトにもアップしたもので、建物を基軸に見てみると、こんな感じ、という見本です。このスタディをフルサイズでご覧になりたい方はFlickrにもアップしましたので、そちらからご覧ください(原寸)。

一目瞭然なので、もう説明はいらないかと思いますが、3枚重ねている一番下が広角のDP1 Merrillで撮った写真です。その上にDP2 Merrillの写真を縮小しながら重ねました。さらにその上に、DP3 Merrillでの写真を同様に縮小して重ねています。

一番下になっているDP1 Merrillはかなり広い絵が撮れることがご理解頂けるかと思います。画面右にあるように立っている場所の横の壁も覆いかぶさるように画角に入れたり、パースの強い絵も撮ることが可能です。また、真ん中のDP2 Merrillの写真は、ほぼ標準レンズの画角ですので、簡単に言うと、見たままの感じです。この写真でも、教会と塔を見上げた感じが、そのままが撮れた感じがします。一番自然な画角ですね。■追記:ごめんなさい。DP2 Merrillは35mm換算45mm相当なのに、写真の中に41mmと書いちゃいました。とほほ。

一番上に重ねたDP3 Merrillの写真は随分と小さくなってます。これぐらい寄るんだなとご理解ください。この写真で言えば、右側の塔も入れられないかと思いましたが画角的に無理でした。逆に言えば、このように「切り取る」感覚で撮ることが出来ます。DP3 Merrillは「すごい望遠」というわけではありませんが、もう一歩近づきたかった、もうちょっと切り取り感を作りたかった、と、そういう思いをお持ちなら納得出来るのではないかと思います。

自分の写真世界を一歩深めるために、三機種からこれしかないと決めるもよし。二機種を選ぶもよし。三兄弟すべてを揃えるもよし。いずれにせよ、どうかご自分の「写真」を一段深めて行っていただけたらと思います。

Friday, February 15, 2013

SIGMA DP Merrill: フォーカスを無限大に固定する

【重要】DP3 Merrillの本番機を入手して、この方法を試しましたが、DP3 Merrillではこの方法では無限大にならないことがわかりました。テスト検証が遅くなってすみません。修正しました。ご迷惑をおかけしたことを、お詫び申し上げます。

カメラのフォーカス(合焦)を「確実に∞(無限大)にしたい!」という時なのに、「合わない!」っていうことって、これがあるんですよね。そこで、今日は、DP2 Merrillのフォーカスを、「確実に無限大に合わせ、固定する方法」について書いておきたいと思います。いつも前置きが長いので、今日は戯言は後回しにします。戯言は気が向いたら読んでください。さて一発で確実に無限大にするにはどうするか以下に記します。ものすごく簡単です。
  1. カメラのフォーカスのモードを、オートフォーカスにする。
  2. カメラの電源を切る。
  3. カメラの電源を入れてカメラを再起動する。
  4. この時点でフォーカスは無限大になっている。
  5. 無限大に固定するためフォーカスのモードをマニュアルにする。

どんだけ簡単やねん!という感じですね(笑)。カメラがパワーオンになった時点でオートフォーカスは無限大になっている。これを覚えて、ぜひ活用してください。注意点はひとつだけ。この方法で無限大にしたあと、レンズのピントリングを回さないこと。あたりまえのことですが、マニュアルフォーカス状態ですので、カメラをホールドし直した時などに、レンズのところのピントリングを微妙に動かしてしまわないようにすること。これだけです。

試しに、ちょっとテストで撮ってみました。カメラはDP2 Merrillです。北側の窓を開け(寒ぃ)、最近出来たデカいマンションにカメラをむけてみました。以下の3枚は

・オートフォーカスで合わせたもの
・上記の方法で無限大にして撮ったもの
・マニュアルで撮ったもの

です。それを原寸にして、切り取ったものです。オートフォーカスと、無限大に設定して撮った二枚では、ほとんど差はありません。ほんの少しだけ無限大にして撮ったものの方が、自然な感じに思います。

それにしても良く写りますなぁ。まぁ見比べてみてください。


最後の三枚目は、マニュアルモードにして、液晶での拡大率を最大にし、明るく輝いている屋根の上の赤い光にフォーカスを合わせようと、ピントリングを回してみました。液晶上では白い点ですので、それが一番小さくなったところでシャッターを切っています。でも合ってなーい!これが怖いわけです。液晶上では合っている感じなのです。写真でも赤い棒みたいなのはフォーカス来てる感じなのです。でも、写真全体としてはボケている!こういった失敗を無くすためにも、ぜひこの技を知って頂けたらと思います。

ちなみに日中のマニュアルフォーカスでは、もっとピント山は掴みやすいですし、こんな失敗はあまりありません。また、出来ればその都度、撮れた写真を液晶で最大の大きさまで拡大して確認しましょう。

さて、以下は戯言です。僕はこの技を知らず、サハラ砂漠での満天の星空にカメラを向けたとき、オートフォーカスでは合焦させることが困難で、二時間ぐらい、ピントリングをカチカチと動かしてましたが、もう「どーにも合わない!寝る!」となって(笑)、結局DP2 Merrillで撮ることが出来ませんでした。

他にも、三脚でガチガチに固定したけど、被写体が液晶の中で揺らいでいて、マニュアルフォーカスで合ってるような気もするけど自信がない!ということも起こります。

また、クルマや列車の窓から写真を撮ろうとしてもオートフォーカスが合わない時があります。これは自分自身が高速に動いているので変化が激しく、カメラがどこを基準に合焦させればいいか判断できなくなっているわけです。でも、この方法で無限大にしておくと、車窓からの景色なども、確実にポンボケさせずに撮ることができます。

さらに、DP Merrill三兄弟のオートフォーカスは、コントラスト検出方式なので、薄暗いところではピントが来ません。いや、まじで来ません。ずーっと「ジーコジーコ」言って、まったくピントはずれのところで止まって赤い[ ]マークが表示されたりします。こういう時に、被写体が無限大でも行けそうな感じなら、この無限大設定のやり方は有効かもしれません。

ちなみに、この、DP Merrillシリーズのオートフォーカスについて、ちょっと書いておきます。

オートフォーカスには、位相差AFと、コントラスト検出方式があります。位相差AFは、非常に高速に合焦点を検出出来ますが、フォーカス用に別のセンサーを使用するのでコンパクト化には向いていません。

一方、DP Merrillシリーズのコントラスト検出は、写真を記録するメインのセンサーに届いた光をもとに、レンズを動かしながらコントラストの強い部分を探して合焦させる方式です。この方式は、ボケた(コントラストが低い)状態から、レンズを動かしながら、最も輝度差のある部分を探るので、合焦に時間がかかるのが欠点です。初代のDP1/DP2は「コココッ」という音を立てながら合焦するのですが、フォーカスが合うまで時間がかかり、とても酷評されました(涙)。でも、DPもMerrillシリーズになって、輝度情報の検知と処理速度がかなり改善されて快適になりました。さらなる改善に期待したいですね。


Monday, February 11, 2013

SIGMA DP3 Merrill: Brochure

クリエイティブメモです。

SIGMA DP3 Merrillのブランディングを手がけました。以下に掲載したイメージは英語版のカタログのイメージです。日本語版のカタログも制作しました。カタログにある情景写真はすべてセイケトミオさんによる写真で、2012年11月に、プラハでSIGMA DP3 Merrillを使って実際に撮影された、撮りおろしです。リリース日は1月31日です。すでにさまざまな販売店の店頭で配布されています。是非、手にとって、従来のカメラカタログとは一線を画した、作品集のような存在感を楽しんでください。SIGMA DPサイトからPDFもダウンロード出来ます。
[日本語版カタログ] [English Brochure]













CREDIT
Cliant: SIGMA Corporation
General Producer: Kazuto Yamaki
Agency: Memes Inc.
Producer: Maiko Hotta
Production: Shinzo Graphica & Associates Inc.
Creative Director: Shinzo Fukui
Art Director: Shinzo Fukui
Photographer: Tomio Seike (Image)
Photographer: Shoichi Kondo (Products)
Projects Management: Izumi Oku
Creative Writing: Stephen Benfey
Print Director: Fumio Tatsumi
Printer: G-Plus Inc., Ryuseikaku
Special Thanks:
Takashi Niizuma, Teru Kuwayama,
Aiko Adachi, Yumi Kato,
and Josef Sudek

Studio Five: 2013 Spring & Summer Collevtion

クリエイティブメモです。

昨シーズンに引き続き、高級ランジェリーブランド「Studio Five」の2013年春夏のブランディングとクリエイティブを手がけました。こちらもリリース日は2013年1月です。




CREDIT
Cliant: Wacoal, Studio Five Division
Agency: Cosmo Communication
Production: Memes Inc.
Producer: Takashi Miyakawa
Creative Director: Maiko Hotta
Art Director: Shinzo Fukui
Photographer: Rowland Kirishima
Styling: Maki Ogura
Hair: Ryotaro
Makeup: Rika Matsui
Management: Izumi Oku
Casting: Shinobu Yamashita
Model: anna C (IMAGE)

Studio Five : CuCute 2013 SS Collection

クリエイティブメモです。

高級ランジェリーブランド「Studio Five」の、ラージカップコレクション「CuCute」、2013年春夏のクリエイティブを手がけ、すべてのコミュニケーションツールを制作しました。訴求力のある鮮やかな印象と清潔感あるブランドイメージを構築しています。リリース日は2013年1月です。



CREDIT
Cliant: Wacoal, Studio Five Division
Agency: Cosmo Communication
Production: Memes Inc.
Producer: Takashi Miyakawa
Creative Director: Maiko Hotta
Art Director: Shinzo Fukui
Photographer: Rowland Kirishima
Styling: Maki Ogura
HairMakeup: Emi Ohara
Management: Izumi Oku
Casting: Shinobu Yamashita
Model: LENKA(Donna Model Management)

Sunday, February 10, 2013

SIGMA DP Merrill Series : 画角比較

SIGMAのコンパクトカメラDPシリーズも広角、標準、そして中望遠と、三機種が出揃いました。このSIGMA DP1 Merrill、SIGMA DP2 Merrill、SIGMA DP3 Merrillの、それぞれの画角の違いを知って頂くのに、DP3 Merrillのレンズ紹介のページにもプラハの聖ミクラーシュ教会を被写体とした画角写真を載せましたが、あれは絵としてDP3 Merrillの絵が一番いいかと言うとそうでもないところもあり(あれが後ろに下がる限界の場所なのです)、もっと引いたところからの絵の方が理解しやすいかとも思いましたので、こちらにアップしておきます。

ちなみにこれらは同時撮影ではありません。同じ場所から三台のカメラを三脚に順に載せ替えながら撮ったものですので、太陽は動いていますし、雲間から陽光が出たり入ったりしている状況ですので光量の違いがあります。ですので、あくまでも「画角の比較」という視点で見てください。

SIGMA DP1 Merrill : 19mm(35mm換算28mm相当)

SIGMA DP2 Merrill : 30mm(35mm換算45mm相当)

SIGMA DP3 Merrill : 50mm(35mm換算75mm相当)

さらに、これら三機種の写真を、写真の真中に写っているスメタナ美術館と、その奥の旧市街広場のティーン教会の二本の塔のところを、写真として合わせるように縮小・拡大をして、実際の縮小率・拡大率をスタディした時のデータをアップしておきます。まずは縮小比率のものです。一番下のDP1 Merrillは広角なので、当然のように一番引いた絵です。それを100%としての縮小率です。

次に拡大比率のスタディです。一番小さいDP3 Merrillを100%として、DP2、DP1の拡大率を入れてみました。DP3 Merrillがどれぐらい寄れる感じかわかっていただけるかと思います。こうして重ねて見ると、違いが一目瞭然ですね。

以上、DP Merrill三兄弟の比較でした。DP3 Merrillがまた手に入ったら、これとはまた違った被写体で、こういうテストをしてみたいと思っています。

●追記:このエントリーで使用した写真をFlickrにアップしました。
focal length comp: DP1 Merrill
focal length comp: DP2 Merrill
focal length comp: DP3 Merrill
focal length comp: DP Merrill series


Photo Pro : 色収差補正

シグマのカメラで撮影したRAWデータを現像するSIGMA Photo Proには、倍率色収差を補正する機能を持っています。また、その補正も、それぞれのレンズのデータを元に補正することが出来るので、初めて現像するような方でも、とても簡単に補正を行うことが可能です。

収差とはセンサー上での光の集まり方の微妙なズレのことを言います。デジタルカメラは、レンズを通して光をセンサー上に結像させ、それを記録しています。しかし、レンズを通した光は、まっすぐにセンサー表面に届いているわけではありません。

特に広角レンズの場合には、かなり斜めからの光もレンズは処理しなければなりません。レンズの屈折を利用して光を出来る限り真っ直ぐに、そしてセンサー面での結像にズレが起こらないようにする。これがレンズ開発のむずかしいところなのだと思います。このあたりの説明はニコン・インストルメンツカンパニーさんの顕微鏡技術での説明がとてもわかりやすいと思います(下段の説明の「光源の状態」タブを押すとレンズを通した光がどのようになってズレが起こるか理解出来ると思います)。

結像のズレが発生する原因は、レンズの形状によるものと、レンズに使われる素材の特性に拠るものに分けられます。このブログエントリーで言及する「倍率色収差」は、後者の素材によるもので、視野の広さに比例して「色ずれ」が発生します。ですので広角レンズを搭載したDP1 Merrillでは、避けられないと言ってもいいでしょう。もちろん、最新の技術によって開発されたFLDガラスのような高価なレンズ素材をコスト度外視に使えば、結像ズレは改善されるのかもしれませんが、我々が購入できる価格帯で、最高のレンズ性能を持ったカメラを作ることもシグマのレンズ開発の大きなミッションなのだと思います。

さて、前置きが長くなりました。Photo Proの色収差補正について、具体的な説明に入りたいと思います。サンプルとして開いている写真はSIGMA DP1 Merrillで撮影したものです。広角レンズを搭載しているので若干の色収差が起こる場合があります。それを補正するプロセスをキャプチャしながら、Photo Proの使い方を説明します。まず、ベースの写真を開きます。これはプラハの丘の上からブルタバ川とカレル橋を見下したところです。

この写真の左端を拡大してみます。拡大率は200%です。写真の端を拡大しているのは、最も光が真っ直ぐに届かないところだからです。こうして拡大してみると見事に色収差が起こっています。「パープルフリンジ」と呼ばれるマゼンダ色が滲んだ感じに出ているのがわかるでしょうか。でもこれの補正がPhoto ProでのRAW現像で簡単に出来るのです。補正のために調整パレットの「倍率色収差補正」のタブを開きます。

「倍率色収差補正」のタブの、「レンズプロファイル」をオンにします。画像をクリックして見てみてください。これだけで随分とマゼンダ色のところに補正がかかったことがわかります。そして、この「レンズプロファイル」での補正はPhotoshopでのように、ただ色を除去・変換するという機能ではなく、レンズによる収差を、全体で補正していることがわかります。写真の中心を軸に、原理的に収差の大きい左端に近づくにつれて徐々に補正が強まっている。これは拡大した画像で、補正前とこの補正後を交互に見ると、それがわかるかと思います。さて、でもまだ色の滲みが残っています。そこで、さらに「フリンジ除去」機能も使ってみます。「倍率色収差」のタブにある「マニュアル」補正も使えますが、この写真の場合は、「レンズプロファイル」補正でかなり補正出来ているので、フリンジ補正で微調整に進みます。

「倍率色収差補正」のタブの下の「フリンジ除去」タブを開き、マゼンダの補正を「オン」にし、さらに「適用量」を1.0にしてみました。これでほぼズレを消すことが出来ました。しかしこれで完璧ではありません。マゼンダのズレを補正したことで、こんどはグリーンのズレも少し出ていることがわかりました。これを補正してみます。

「フリンジ除去」タブのマゼンダ補正の上に、グリーン補正も施してみました。もう色がズレていた部分はほとんどなくなりました。枝の向こうの空の色もスッキリとした印象です。まだ気になる場合は、マゼンダとグリーンの補正の適用量を調整します。また、注意が必要ですが、色相パラメータを左右に動かしたり、補正する色相範囲の強弱を調整することで、ほぼ完璧に補正することが可能です。

次に写真を全体表示にして、これらの補正が、写真そのものの印象に大きく影響していないかどうかを確認します。何よりもこれが一番大切です。今回の事例では、「フリンジ除去」タブの色相バーまでは触りませんでしたし、問題ないと思うのですが確認します。また、特定色をピクセル単位で吸い上げて補正する「フリンジ除去」タブの中のスポイト型アイコンの機能を使うと、写真全体の色調に大きな影響を与えかねません。ですので、この補正前と補正後を必ず全体で見比べる。これはとても大切です。実際にこの写真でも見比べてみましたが、最初の補正前と補正後に大きな違いはありません。

さて、DP1 Merrillで撮った写真は、こうした倍率色収差の補正が必ず必要かと問われれば、僕の答えは「いいえ」です。普段ネットで見せたりするレベルではほとんど問題にはなりません。ただ、大きくプリントする場合などは、この補正をかけて無意味な色のチラつきを除去しておくことは必要になると思います。また、印刷する場合は、このマゼンダ色はそのまま出てしまいますので、僕は必ず補正するようにしています。

Photo Proの色収差補正の説明は以上です。フリンジ補正は、また別の側面もありますので、補正が必要になった事例を探して、また書いてみたいと思います。

Saturday, February 09, 2013

SIGMA DP3 Merrill: Macro Sample

SIGMA DP3 Merrillのマクロの見本は、サンプルギャラリー撮影メモの第四弾でも紹介しましたが、同じ画角で絞り違いも見たいですよねぇ、ということで、絞りを変えた2枚をFlickrにアップしておきました。被写体はプラハの古本屋で買ったソ連の共産主義に統括されていた頃のチェコ(この頃はチェコ・スロヴァキアですね)の切手です。この時代の切手は「労働万歳!」みたいな絵柄ばっかりでしたが、プラハの景色があるのを見つけたので買いました(ソビエトの国旗が邪魔ですけどw)。切手のサイズや消印の大きさは日本の切手とあまり変わりませんので、スケール感などの目安にしてください。一枚目が絞りF16.0です。ここまで絞っても、よくある嫌気な収差はまったく感じられません。二枚目は開けて、絞りF4.0です。この被写体を撮るのは開けすぎですが、ボケ足の感じはとても素直な感じがしますね。




Thursday, February 07, 2013

SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 6

DP3 Merrillサンプルギャラリーの撮影メモも、今日で第六弾。最後になります。今日はDP3M-36番からです。

DP3M-36
いつもは一人で撮影されているセイケさんにとって、ずっと後ろをついてきて、時には待たせる僕のような存在は、あきらかに邪魔者だったと思います。でも、そこは紳士のセイケさんですから、「あっち行け」とか、「もう来るな」とかは絶対に仰らないわけです。そんなある日、僕は朝から用事があって宿を出ることが出来ず、セイケさんとは別行動でした。セイケさんは、足手まといな僕がいなくて、きっと清々しておられたのではないかと思います。でも、この日はずっと小雨が降っていて、セイケさんが撮影されているのかどうかもわからず、とにかく用事を終えて、午後に落ち合いました。そしたらセイケさん、随分と優しいのです(笑)。とてもご機嫌で、「今日はね、色々撮れたんだよ」と、カメラの液晶で撮れた写真を見せてくださるのです。そして、「カフェに入ろうか」と、これを撮ったプラハのカフェ・ルーブルに連れて行って下さいました(ここのホット・チョコレートはプラハで一番濃厚で美味しかったです)。恐縮しながらも、その時にお聞きした話は、「写真とは」の真髄に迫る話で、僕にとっては忘れられない時間となりました。これは、その時にセイケさんが頼まれた紅茶のポットです。とても暗かったので三脚を立て、ガラスコップに焦点を合わせて撮りました。絞りはF5.6です。自然なボケ感と、滑らかな質感描写が、ポット、グラス、カップの、それぞれの立体感を素直に記録しています。また、窓の外からの光も柔らかく、静けさを感じます。そして僕は、この写真を見るたびに、セイケさんから頂いた金言が、いまも蘇ります。

DP3M-37
プラハの街を縦横無尽に走る「トラム」こと路面電車。僕たちは毎日乗って移動していましたが、不思議なことに観光客が乗っているのを、あまり見ませんでした。彼らはどうやって移動しているのかわかりませんが、まぁトラムに乗らなくても旧市街を歩いて回るだけでも観光は十分に出来るので、そういうことなのかもしれません。とにかくトラムは便利です。停留所で待てばすぐに来ますし、どこに行くのもチョイ乗り感覚で、乗ったり降りたり。それぐらい煩雑に次から次と走って来ます。そんな中、石畳と線路の輝きのコントラストに魅せられていました。でもじっくり構えて撮っているわけには行かないのです。線路に立つと、すぐに後ろから電車が近づいてきて「ぽわーん」と警笛が鳴らされます。それに線路のところはクルマも走るので危険なのです。でも、ある日、クルマが来ない線路だけの場所を見つけ、撮っては歩道に戻り、また路面に戻って撮る、というのを繰り返して、これを撮ることが出来ました。構図としては、夕方の路面の、ほとんどモノクロームの絵で、あまりに構成的すぎるので、この構図の中に、通りすぎて行ったトラムの余韻の赤い色の光を入れようと粘りました。絞りはF4.5です。

DP3M-38
これは、アールヌーヴォーの代名詞のような存在の「アルフォンス・ミュシャ」がデザインした、聖ヴィート大聖堂のステンドグラスです。でかいです。巨大です。ディティールを撮りたかったので、近づけるだけ近づいて撮りました。他のステンドグラスにはない美しい色彩も、細かなガラスの質感も、ちゃんと写ってますね。この大聖堂の中は、写真はOKなのですが三脚は立てさせてくれません。どう考えてもブレると思い、お願いしましたが許可されませんでした。仕方がないので手持ちで撮ることにしました。そういうわけでこれも開放F2.8です。ISO感度を上げようかとも思いましたが、このベータ機では、こういう暗い所ではバンディング・ノイズが出ることを懸念していたので(この写真にも出ています)やめました。そして、こういう時に連写モードが役立ちます(笑)。左右のブレは写真的には致命的ですが、前後のブレはピント位置が違ってくるだけで、まだ救いようがあります。ですので、出来るだけ身体が横に揺れないように足を踏ん張り、あとは集中して撮り続けました。このベータ機ではなく、発売される本番機なら、ISO400 / F5.6ぐらいでも余裕で撮れるのではないかと思います。しかしこれ、微妙な色までホント良く写ったなぁ。

DP3M-39
セイケさんとの撮影は2012年11月30日に終了し、セイケさんは翌朝にプラハからイギリスに戻られました。僕はもう一日滞在し、ステンドグラスの写真の38番から夜景の42番までを撮りました。これらは、このサンプルギャラリーに掲載するための写真として撮ったもので、セイケさんと一緒に過ごした時間での写真以外に、もう少し色彩感のあるものや、建物、よりスナップ的なものも撮影しておかなければ…と、そういう感じで撮ったものです。そこで、セイケさんとの撮影では徹底的に避けてきた観光地に出かけました(笑)。そしてこの快晴です。セイケさんと撮影していた時には、一度も出なかった見事な青空が広がりました。これだけ明るいとブレの心配もなく、ある意味、気楽に撮れます。そんな気持ちを天が察したのか、真上をジェット機が真っ直ぐに飛んでくれました。飛行機雲にフォーカスを置くのではなく、手前のシルエットにピントを合わせました。絞りはF5.6です。これはノーマルに現像していますが、Fov Classicモードで現像すると空の青が際立ったのかもしれませんね。

DP3M-40
西陽に照らされる聖ヴィート大聖堂を見上げた図です。38番のステンドグラスを撮ったあと、大きな教会をぐるりと回遊し、表に出てきたところです。言ってみれば大聖堂の正面ですね。ただ、DP3 Merrillの「レンズ紹介」のページの一番下に、DP1 / DP2 / DP3の画角違いを載せましたが、DP3 Merrillは、これぐらい狭い画角なので、全体を撮るにはかなり下がらなければなりません。しかしこの大聖堂の前はそんなに広くないのです。サンプルギャラリーの10番の、遠景から撮った大聖堂の写真でもわかるように、周りは建物で囲まれているので引きがありません。仕方ないので、逆に寄って、正面のステンドグラス部分を撮りました。しかし写ってますね。保護用にかけられたネットの、網の線の一本一本が、すべて滲まずに描写されていて驚きです。他社のカメラだと、これと同じ画角で撮ると、おそらくネットの色と背景の色が近い部分は溶けてしまったように写ってしまいますが、そこはMerrillセンサー、さすがの描画です。それから、これは晴天ですがISO200で撮っています。その理由は白飛びを防ぐためです。このように直射日光が当たっていて、被写体に強いコントラストがある場合、ISO100のJPEG撮りでは白飛びが起こる場合があります(RAWで撮っていれば現像でかなり戻せる)。これはMerrillセンサーの実際の実効感度がISO100よりも若干高いことに起因しています。直射日光下では、ISO200で撮ることで回避出来る場合があることを覚えておいてください。

DP3M-41
DP3 Merrillと同時発表で話題になっているモノクロモードの写真です。あくまでもベータ機での撮影ですし、現像もPhoto Pro5.5のベータ版で現像していますので、これも「見本」という見方でご覧ください。この写真を撮った場所はプラハのアンジェル駅の裏通り、プルゼニスカーから南に少し行ったあたりです。プラハのマンホールは、紋章のある文様も魅力的なのですが、この鋳鉄のザラザラした質感が美しく、また石畳との対比もいい感じ。奥から光が差し込むのを待って撮りました。モノクロモードでの現像では、光の入り具合と、鋳鉄の鈍い輝き、この二点に絞って現像しています。Foveonのセンサーは、元々光を100%取り込んでいますので、X3FというRAWデータは、そのすべての光の情報を保持しています。ですので撮ったときに生成されるJPEGデータでの階調や、ハイライトなどは、あくまでも暫定的な現像結果でしかありません(またJPEGでは白飛びが起こりやすいのです)。そして色分離せず「すべての光」の情報をモノクロームでコントロールするわけですから、カラーの現像よりも、より突っ込んだ印象操作が可能です。これは次のSIGMA Photo Pro 5.5がリリースされたら、是非みなさんに試して頂きたいところです。ちなみにこの写真の元のデータは、またFlickrにアップしますね。まったく印象の違う絵ですので、現像でこんなに出来るのかと驚かれると思います。■追記:Flickrに元の写真をアップしました。Flickrのは撮ったまま現像したデータです。

DP3M-42
さて、長々と書きつづけてきたDP3 Merrillサンプルギャラリーの撮影メモも、最後の写真になりました。この写真は、マーネスーフ橋の上から、カレル橋を撮ったものです。プラハは夜になると主だった建築に美しい照明が当てられます。それもよく考えられていて、照明の光源が上手く隠されていて、夜でも写真が撮りやすいような配慮がありました。このあたりはさすがです(京都や奈良の、あの無神経な照明は考え直してもらいたいものです)。そういうわけで夜景を撮りたいと思っていましたが、中々絵になる光景に出会いません。そこにカメラを向けても、ただ照明の当たった古い建物、でしかないわけです。そんなことから川面に光が映り込む光景を撮ることに決め、カフェ・スラヴィア側から王宮を狙ったり、ストジェレツキー島から見てみたりと、色々歩いた結果、このマーネスーフ橋から見た光景に決めました。ISO100で4秒露光です。空に伸びる照明のフレアが美しく、評価測光での±0から露出を少し開けて一度撮りましたが、左の建物に白飛びが出たので、その両方を鑑みて露出を-0.3下げて撮っています。それでもこのバックライトの感じがちゃんと写っていて美しいですね。また、この写真は色温度をあえて「蛍光灯」にして撮っています。この設定での色が、僕には最も美しく感じたのでした。異邦人を温かく受け入れ、色々な経験をさせてくれたプラハの街への感謝を胸に、最後の夜に輝くプラハを撮る。これはその時の僕の心の中の色です。

これでDP3 Merrillサンプルギャラリーの撮影メモは終了です。見ていただいて、DP3 Merrillってこういう感じなのかな、と、そういうニュアンスを少しでも掴んでいただけたらと、そういう想いで書きました。また、写真の解説というよりも、撮影記になってしまったものもありました。でも、旅の写真は、そういう「そのときの記憶」こそが重要なのではないでしょうか。それを元に現像し、記憶を焼き付ける。そしてその経験を自分のものにして、また次の旅へとつなげていく。そういう意味でも、「写真」というのは素晴らしいものですね。

最後に、心からセイケさんに感謝します。ありがとうございました!

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以下、この撮影メモのエントリーリストです。それぞれ7枚づつです。合わせてお読みいただけたら幸いです。
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 1
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 2
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 3
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 4
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 5
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 6(このエントリーです)